ご家族が交通事故のためにお亡くなりになってしまった方は、何をしたら良いのでしょうか。お葬式、役所への手続き、相続、加害者への賠償請求、これらについて参考になる情報や役所のウェブサイトをまとめさせていただきました。弊所にてお手伝いできることがありましたら、ご連絡くださいませ。
役所や健康保険の手続
役所での手続きは次のとおりです(横浜市港北区の場合:https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/front/gohukou.files/0002_20191003.pdf)。
- 住民票に死亡したことを記載する手続き
- 世帯主の変更(世帯主が亡くなった場合)
- マイナンバーカード関係の話
- 健康保険の脱退など
- 介護保険の脱退
- 国民年金・厚生年金の関係
一つずつ解説していきます。
住民票に死亡したことを記載する手続き
住民票に死亡の年月日が記載されるまでには、次の手続きをとることになります。
まずは、医師から「死亡診断書」又は「死体検案書」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/)を受け取ります。
死亡届の提出
お亡くなりになったことを知ってから7日以内に提出します。
(http://www.moj.go.jp/ONLINE/FAMILYREGISTER/5-4.html)
提出に、費用は発生しません。
死亡診断書と死亡届は一体の書式になっていることが多いです。
記入例:http://www.moj.go.jp/content/000011718.pdf
死亡届を提出すると、住民票にも死亡の旨が記載されることとなります(住民基本台帳法施行令8条、13条)。
また、死亡届に併せて、火葬許可申請書も提出します。
こちらも、死亡届を提出する役所の窓口に備え置かれていると思います。
提出すると、役所から火葬許可証が発行されます。
(横浜市:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/koseki/shiboutodoke.html)。
火葬許可証が発行されると、火葬を行うことができるようになります。
葬儀社と打ち合わせを進め、葬儀を行います。
世帯主の変更(世帯主が亡くなった場合)
住民票は世帯ごとに作られています。
そして、世帯ごとに、世帯主を決めることになっています。
この世帯主の方がお亡くなりになった場合で、
世帯に2人以上の方がいらっしゃる場合には、
新しい世帯主を決めなければなりません(住民基本台帳法25条)。
(お亡くなりになった方以外に、一人しかいない場合は、その方が世帯主になりますから、お手続きはありません。)
お亡くなりになってから14日以内の期間に行いましょう。
マイナンバーカード関係の話
特に届出の必要はありません。
相続等の手続きで必要になる可能性もありますので、お亡くなりになってすぐに役所に返納するのではなく、
相続の手続きがひと段落ついてから返納するようにしてください。
健康保険の脱退など
健康保険には、いくつか種類があります。概ね手続きの内容は同じですが、手続き先が違いますので、ご注意ください。
- 自営業者など ⇒ 国民健康保険(国民健康保険法3条、各都道府県が実施)
- 75歳以上の方 ⇒ 後期高齢者医療制度(高齢者の医療の確保に関する)
- 中小企業のサラリーマンなど ⇒ 協会けんぽ(健康保険法5条1項)
- 大企業のサラリーマンなど ⇒ 健康保険組合(健康保険法6条)
国民健康保険の方
死亡した場合には、国民健康保険の資格を失うことになります(国民健康保険法8条1項)。
そのため、区役所等で、脱退の手続きを行うことになります。
この届出は、死亡した日の翌日から14日以内に行いましょう(国民健康保険法9条、国民健康保険法施行規則12条)。
国民健康保険証、高齢受給者証、限度額適用・標準負担額減額認定証などをお持ちの方は、持参して、役所に返還しましょう。
後期高齢者医療制度
こちらも、死亡した場合には、資格を失うことになります(高齢者の医療の確保に関する法律53条1項)。
国民健康保険と同じく、区役所等で脱退の手続きをします。後期高齢者医療被保険者証、限度額適用・標準負担額減額認定証を返還します。
協会けんぽ・健康保険組合の方
やはり死亡した場合には、資格を失うことになります(健康保険法36条1号)。
「埋葬料(費)支給申請書」を提出して資格喪失の手続きを行います。
このとき、保険証の返還も行いましょう(協会けんぽの場合:Q6:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r323/)。
介護保険の脱退
死亡した場合には、資格を失うことになります(介護保険法11条1項)。
介護保険被保険者証、負担割合証、負担限度額認定証を役所に返還しましょう(介護保険法12条4項)。
国民年金・厚生年金の関係
死亡すると、年金を受け取る権利がなくなります。
かつては、死亡したことを届け出る必要がありましたが、
現在はマイナンバー制度が普及したため、
死亡の届出は省略できることになりました。
(日本年金機構:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20140731-01.html)
ただし、死亡した月の分までは、生計を同じくする親族の方は、年金を受け取ることができます。年金事務所に確認を行いましょう。
国民年金に加入していた方
また、たとえば次の年金の受給については、手続きが必要になります。
- 遺族基礎年金
- 寡婦年金
- 死亡一時金等
手続きをする場所は、基本的には役所です。
区役所等の国民年金係に必要な手続きを確認しましょう。
(日本年金機構:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/izoku/seikyu/20140617-01.html)
厚生年金に加入していた方
厚生年金に加入していた方が、遺族厚生年金等を受給する場合も、手続きが必要です。
手続きは、年金事務所で行うことになります。
(日本年金機構:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/izoku/seikyu/20140617-02.html)
税金関係
確定申告
個人事業主の方などで、確定申告をする必要があった方が亡くなった場合、
相続人の方が代わりに行わなければなりません(準確定申告と言います。)。
お亡くなりになった方が税理士の方にご依頼されていた方は、
税理士の方に相談するなどして、
税務署に必要書類を提出しましょう。
(国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm)
相続税
相続により財産を取得する方は、相続税を支払う必要があります。
相続放棄をして、財産を相続しないことにされた方は、
もちろん相続税を支払う必要はありません。
国税庁のウェブサイトに、
相続税の申告要否の判定ができるページがありますので、
確認を行いましょう。
相続財産が少額の場合には、相続税の申告が不要となることがあります。
(国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/souzoku.htm)
相続税の申告期限は、お亡くなりになった日の翌日から10か月以内です。
また、遺産は、話し合いや裁判手続きによって、
誰がいくらもらうのかが決まらない限り(遺産分割といいます。)、
実際の相続額が分からないことになります。
ですが、まだ遺産分割協議が終わっていない場合でも、
法律上の原則的な分け方(法定相続分)で、
一旦は、相続税の申告を行わなければなりません
(国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm)。
正しく相続税の申告を行わない場合、税務調査が入り、
必要以上に税金を納めなければならなくなるなど、
後々大変な目に遭いますから、隠し事はしないようにしましょう。
ご自宅関係
自宅に住み続けるために必要なこと
ご自宅が、亡くなった方の所有物件(購入などしていた)の場合
遺産分割協議により、誰がご自宅を取得するのか、誰が住み続けるのかなどを話し合います。
ご自宅を亡くなった方が借りていた場合
家を借りる権利のことを、賃借権といいます。
この賃借権も、他の現金や預金などと同じように相続財産になります。
この賃借権を誰が相続して住み続けるのかということを遺産分割協議で話し合って決めることになります。
大家さん、貸主の承諾は不要です。
亡くなった方のご自宅に誰も住まないようであれば、契約を解除します。
公共料金の関係
ガス会社、電力会社などに、名義変更や利用停止の手続きをとります。
遺産の取得や分け方など
相続するか、相続放棄するかの選択
お亡くなりになって相続が発生すると、
死亡した方の資産だけではなく借金も相続人の方が引き継ぐことになります。
そのため、資産よりも借金のほうが多いような場合には、
相続するのではなく、相続を放棄する必要があります。
この相続放棄の検討期間は、原則としてお亡くなりになったことを知った日から3か月以内です。
(延長ができることもあります。裁判所:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html)
ただし、一度相続放棄をしてしまうと、撤回はできません。
交通事故による死亡の場合、加害者に対する損害賠償請求権が発生していますから、
相続放棄をしてしまうと、この賠償請求権のほとんどの部分が請求できないことになります。
死亡事故の場合の賠償金は高額となりますから、慎重に判断する必要があります。
また、相続人の調査にも、相続財産の調査にも、
それぞれの役所や会社に対して照会や申請をしても、すぐに回答があるわけではありません。
時間に余裕をもって早めに行っておきましょう。
相続人の調査
相続財産の調査や、その後の遺産分割の手続きでは、
家族関係を明らかにするために戸籍を全国の役所から取得しなければならない場合があります。
(亡くなった方が生まれてから死ぬまでの全ての戸籍を集めます。)
様々な団体に財産調査を依頼する場合、戸籍の返還を待たねばならないこともあります。
一度、法定相続情報証明制度を利用し、法定相続情報一覧図を取得しておくと、大変便利です。
(法務省:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html)
相続財産の調査
では、相続するか、相続放棄をするかの選択は、どのように決めれば良いのでしょうか。
これは、お亡くなりになった方の資産と借金を全て調べる必要があります。
どうしても発見できない借金・債務や、金額に争いのあるものも出てくるかもしれませんが、
まずは調べることが第一です。
この相続財産の調査は、弁護士に依頼をするなどして代行してもらうこともできますし、ご自身で行うことも可能です。
遺言書
遺言が正しく作られていれば、遺言に財産の一覧があるはずです。
また、財産の分け方も記載されていますから、まずは遺言を探しましょう。
銀行預金
心当たりのある銀行に対して、相続手続きをとりましょう。
お亡くなりになった方の預金があるかどうかや、残高を教えてもらうことができます。
口座は、遺産分割協議がまとまるまでは凍結されて引き出せなくなりますが、
相続を選択される場合で、ご自身の法定相続分の3分の1であれば引き出すことができます。
(民法909条の2 預貯金の払い戻し制度:http://www.moj.go.jp/content/001318075.pdf)
不動産
心当たりのある不動産について、名寄帳や、より具体的に場所が分かっている場合には登記簿などを見て調べます。
株・投資信託など
心当たりのある証券会社に対して、相続手続きをとります。
残高を教えてもらうことができます。
投資を積極的に行っている方の場合、海外の証券口座に多額の資産を保有していることもあります。
借金の有無
借金の借り入れの有無など、どうやって調べればよいのかと思われるかもしれません。
知人や友人から借りた借金があるかどうかは、借用書があるかどうかや、
知人や友人の言い分を聞いて判断することになりますが、
消費者金融や銀行から借りたお金があるかどうかについては、調べることができます。
- 銀行からの借り入れ(住宅ローン等) ⇒ 全国銀行個人信用情報センター(KSC)(https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/open/)
- クレジットカードの借金 ⇒ CREDIT INFORMATION CENTER(CIC)(https://www.cic.co.jp/mydata/mailing/index.html)
- 消費者金融の借金 ⇒ 日本信用情報機構(JICC)(https://www.jicc.co.jp/kaiji/procedure/mail/index.html)
加害者への賠償請求権
交通事故でお亡くなりになった場合、加害者に対して賠償請求を行うという権利も相続財産になります。
詳しくは、後述します。
遺産分割の話し合い、調停、審判
相続人と相続財産の調査が一通り済みましたら、
全ての相続人と、どの遺産を誰が取得するかということを話し合います。
話し合いで解決できない場合は、
裁判所での話し合い(調停)や、
話し合いで解決できなかった場合は裁判所に分け方を決めてもらう(審判)などして解決します。
(横浜家庭裁判所:https://www.courts.go.jp/yokohama/vc-files/yokohama/file/20-50_ikkatsu-isanbunkatsu.pdf)
加害者への賠償請求
加害者に対しては、
- お亡くなりになった方に発生した損害と、
- 相続人の方に固有の損害
の2つの面から、賠償請求を行っていきます。
お亡くなりになった方に発生した損害は、
相続の対象になるため、
加害者側と話し合いを行う場合には、
基本的には相続人全員の方向性が一致していなければ対応してもらえないと思います。
相続人の方向性がバラバラの場合には、
自分の相続分だけ、裁判をして回収することができます。
賠償金請求については、遺産分割協議や調停を行う必要はありません。
死亡の場合の賠償金は非常に高額になりますから、ご自身で示談を締結する前に、専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。
亡くなった方の損害
治療費
交通事故後、搬送された病院での治療費は、実際に発生した額を請求します。または、保険会社から直接病院に対して支払済みであることもあります。
入院雑費
入院1日あたり1500円で計算します。
逸失利益
お亡くなりにならずに生きて働いていれば、
その人が得られたであろう収入を賠償するものです。
金額が大きくなるところであり、計算方法にも細かい部分で様々な考え方がありますから、
加害者側の保険会社の言うことを鵜呑みにしてはいけません。
慰謝料
お亡くなりになったことの無念な思いを金銭的に換算します。
こちらも、高額になる傾向にあり、保険会社の提示を鵜呑みにしないようにしてください。
相続人の方に固有の損害
慰謝料
残された遺族の方の悲しみを金銭で換算したものです。
葬儀費用
葬儀費用を支出した方は、その費用を賠償請求します。
原則として、150万円です。
これを下回る場合は、実際に支払った金額です。
香典返しを受けても葬儀費用から減らす必要はありませんが、
逆に、香典返しの分を損害に含めることはできません。
弁護士費用
裁判まで進んだ場合、実際に必要になった金額にかかわらず、
全ての損害を合計して、その10%を弁護士費用として加害者に請求します。
示談の場合、弁護士費用は付さないことが一般的です。
交通事故の加害者に対する賠償請求は、死亡事故の場合には高額となることが多く、
保険会社の示談提示では裁判をした場合よりも大きく減額された額である可能性が高いです。
専門的な見地から、裁判も視野に入れた慎重な判断が必要になります。